「帳簿は黒字なのに、手元に残るお金が年々減っている」——数年前に区分マンションや木造アパートを買い、変動金利で返済中の方から聞く声です。
その正体がデッドクロスです。物件の稼ぎが落ちたのではなく、税金の計算と返済の構造が原因です。
本記事では、いつ来るかの見極め方、金利上昇が重なったときの対策、売却で出口を取る際の注意点を整理します。
デッドクロスとは?「黒字なのに手残りが減る」仕組み
デッドクロス = ローンの元金返済額が減価償却費を上回った状態
税金は帳簿上の利益(課税所得)にかかり、生活を支えるのは実際の手残り(キャッシュフロー)です。デッドクロスに入ると、この2つが逆方向に動き出します。
- 帳簿は黒字が続く — 減価償却費が減るほど課税所得は増えます。
- 手残りは細る — 元金返済は現金が出るのに経費になりません。
- 資金繰りが詰まる — 黒字のまま納税資金が不足します。
なぜ起きる?「減価償却費」と「元金返済」のズレ
利益と現金がズレる原因は、2つの性質の違いです。
- 減価償却費は「支出のない経費」 — 建物の取得費を耐用年数にわたって配分します。現金は出ないのに課税所得を押し下げますが、償却期間が終われば計上できません。
- 元金返済は「経費にならない支出」 — 返済のうち元金部分は経費になりません。経費にできるのは、不動産所得を得るための借入れに係る利息部分だけです。
さらに元利均等返済では、金利が変わらなければ返済が進むにつれて利息の割合が減り、元金の割合が増えます。償却費と元金返済額の大小が逆転する点がデッドクロスです。
いつ起きる?耐用年数と簡便法で自分の物件の時期を知る
発生時期は、建物・設備ごとの減価償却費とローン元金返済額の推移で決まります。新築の建物部分は、構造ごとの法定耐用年数を基礎に計算します。
| 建物の構造(住宅用) | 法定耐用年数 |
|---|---|
| 木造・合成樹脂造 | 22年 |
| 金属造(骨格材の肉厚3mm以下) | 19年 |
| 金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 27年 |
| 金属造(骨格材の肉厚4mm超) | 34年 |
| 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
中古取得なら、使用可能期間の見積もりが難しい場合に簡便法で残りの耐用年数を計算できます(取得後の資本的支出が取得価額の50%を超える場合は使えません)。
法定耐用年数を全部経過:法定耐用年数 × 20%
一部を経過:(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%
※1年未満の端数は切り捨て、2年未満は2年
例えば築25年の木造アパートなら、22年 × 20% = 4.4年 → 4年です。融資期間が20年なら5年目以降が目安で、実際は建物・設備ごとの償却費と元金返済額を並べて確認します。
数字で見る:減価償却が終わった年に何が変わるか
収入・経費・利息は同じで、減価償却費だけゼロになる年を比べます(仮の条件)。
| 項目(年間) | 償却あり | 償却終了後 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 300万円 | 300万円 |
| 運営経費・ローン利息 | ▲100万円 | ▲100万円 |
| 減価償却費 | ▲100万円 | 0円 |
| 課税所得 | 100万円 | 200万円 |
| 税金(税率30%で仮置き) | 約30万円 | 約60万円 |
課税所得が100万円増え、税金は約30万円増え、手残りは同額減ります。「物件は変わらないのに手取りだけ落ちた」という違和感の正体です。
30%は所得税と住民税を合わせた仮の税率で、実際の負担は他の所得との合算で決まります。試算は税理士等にご確認ください。
金利上昇が重なると二重に苦しくなる
2026年は日本銀行の政策金利引き上げを受け、一部の金融機関で変動金利の基準金利が見直されています。返済額への反映時期は契約によって異なりますが、償却終了と重なると負担は二方向から来ます。
- 利息負担が増える — 増えた利息は経費になりますが、出ていく現金は増えます。
- 節税効果が消える — 償却費という盾を失った状態で返済増を受けます。
ストレステストとして、金利+1%の年間返済額と償却終了後の税負担を重ねても手残りが残るかを確認してください。
デッドクロスへの5つの対策
-
① 返済額軽減型の繰上返済
期間短縮型ではなく返済額軽減型を選べば、毎月の返済額は下がりますが、手元資金は減ります。
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② 借換え・返済期間の見直し
金利を下げるか返済期間を延ばして元金返済を抑えます(総支払利息は増えます)。
-
③ 納税資金の積み立て
増える税額を見積もり、家賃収入から別口座へ積んで資金繰りの悪化を防ぎます。
-
④ 物件を追加して償却費を作る
新たに取得すれば償却費は生まれますが、借入残高や空室リスクも増えます(余力がある場合の選択肢)。
-
⑤ デッドクロス前に売却する(出口)
手残りが細る前に売却し、損益を確定させます(注意点は次章)。
売却で出口を取るときの注意
- 償却した分だけ建物の取得費が減る — 課税譲渡所得の基本形は「売却価格 −(取得費 − 減価償却費相当額)− 譲渡費用 − 特別控除額(適用がある場合)」です。同条件なら償却が進むほど譲渡所得は膨らみます。
- 所有期間5年の分岐 — 譲渡した年の1月1日時点で所有期間5年以下は短期、5年超は長期です。2026年時点の原則税率(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)は短期39.63%、長期20.315%です。
- 売却価格と残債の差を先に確認 — 残債を下回れば自己資金の追加が必要なため、査定で相場を把握し残高証明と照らします。
税額や特例の適用可否は個別事情で変わります。申告や試算は税理士等にご確認ください。
まとめ
デッドクロスは、元金返済額が減価償却費を上回り、黒字なのに手残りが減る状態です。法定耐用年数と簡便法で、償却の終了時期は今日計算できます。
金利+1%のストレステストを行い、繰上返済・借換えや売却などの対策を比べてください。判断材料が揃うほど、打てる手は多く残ります。
デッドクロスが来る前に売却を検討している方へ
出口判断は、売却価格とローン残債の差を知ることから始まります。
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本記事の数値は仮の条件を置いた例であり、成果を保証するものではありません。
税務・法務の個別判断は税理士等にご確認ください。ご相談は無料です。