「大規模修繕の議案が総会で何度も先送りになる」「建替えの話は出ても賛成が集まらない」。所有者を悩ませるこの行き詰まりを解消するため、2026年4月1日、改正区分所有法が施行されました。合意形成のルール自体が見直されています。
この記事でわかること
- 決議の母数が変わった — 欠席者を含めない、出席者ベースの多数決へ(建替えなど、区分所有権そのものを手放すことになる決議は除く)
- 所在等不明(連絡先や居場所がわからない)の所有者を外せる — 裁判所の決定で母数から除外する新制度
- 修繕・建替えの要件 — 客観的な事由がある場合に限って割合が緩和
改正の背景:マンションの「2つの老い」
改正の出発点は、建物の老朽化と居住者の高齢化という「2つの老い」です。修繕が最も必要な古いマンションほど、相続や転出で連絡の取れない所有者が増え、賛成数が集まらない。この悪循環を断つため、老朽化マンション等の管理・再生の円滑化を図る改正法(令和7年法律第47号)が令和7年5月に成立・公布され、区分所有法の改正部分が2026年4月1日に施行されました。
緩和①:集会決議が「出席者ベース」の多数決に
改正前の集会決議は、区分所有者全員を母数とする多数決が原則でした。母数とは、賛成・反対の割合を数えるときの基準になる人数や票数のことです。欠席者も所在のわからない人も分母に数えられるため、不在が事実上の反対票と同じ重みを持つ構造だったのです。
改正後は、建替えなど区分所有権そのものを手放すことになる決議を除き、普通決議や共用部分の変更などの特別決議が集会に出席した区分所有者(書面・代理人による議決権行使者を含む)を母数とする多数決に改められました。出席者ベースとなる特別決議には区分所有者数・議決権数の双方について各過半数の出席という定足数が新設され、出席の少ない総会で重い議案が通ることはありません。
緩和②:所在等不明区分所有者の除外制度
もうひとつの柱が、新設された所在等不明区分所有者の除外制度です(区分所有法38条の2)。所有者や所在がわからない住戸について、他の区分所有者または管理者が、建物所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます。裁判所は申立ての事実を公告し、1か月以上の異議届出期間が経過した後に、対象者を決議の母数から外す「除外の裁判」をするという流れになります。
裁判が確定すると、その区分所有者は議決権を有しないものとして決議の母数(頭数・議決権)から除かれ、集会の招集通知も不要になります。効力は特定の議案に限られずその後の集会決議全般に及びますが、所有者本人やその所在が判明した場合には、利害関係人の申立てにより裁判が取り消される点も押さえておきましょう。
除外は裁判所への申立てと公告手続を経て認められる制度で、管理組合の判断だけで特定の所有者を決議から外すことはできません。調査の尽くし方や必要書類は、マンション管理士・弁護士等の専門家に相談しながら進めましょう。
共用部分の変更・建替え決議も条件付きで緩和
修繕や再生に直結する決議も見直されました。ポイントは、原則の割合を維持したうえで、客観的な事由がある場合に限って緩和する仕組みになっている点です。
| 決議の種類 | 原則 | 緩和される場合 |
|---|---|---|
| 共用部分の変更 | 出席者の各4分の3以上(区分所有者数・議決権数の各過半数の出席が定足数) | 同じ定足数のもと、出席者の各3分の2以上 |
| 建替え | 全区分所有者・全議決権の各5分の4以上 | 政令で定める事由があるとき各4分の3以上、大規模災害時はさらに各3分の2以上 |
共用部分の変更が緩和されるのは、設置・保存の瑕疵により他人の権利や法律上保護される利益が侵害される(またはそのおそれがある)場合(倒壊のおそれがある立体駐車場の取り壊しなど)と、高齢者・障害者等の移動や施設利用の負担を軽減するバリアフリー化に必要な場合(スロープの設置やエレベーターの改修など)です。建替え決議も、耐震性能の不足など政令で定める事由に該当するときに限って要件が緩和されます。大規模な災害で建物が大きく壊れた場合は、被災区分所有法(大規模な災害からの復旧に備えた特別法)に基づき期間限定でさらに緩和され、各3分の2以上で建替え等を決議できます。古いから緩和されるのではなく、事由に当てはまることの確認が前提です。
マンション所有者・売却を考える方への影響
今回の改正は管理組合の手続だけの話ではありません。必要な修繕や再生が決まらないまま老朽化だけが進むリスクが下がることは、資産価値の維持に直結します。中古マンションを検討する買主は、修繕積立金の水準や長期修繕計画の実行状況を必ず確認するからです。
売却を視野に入れているなら、直近の総会議事録・長期修繕計画・修繕積立金の残高に目を通しておきましょう。大規模修繕が決議済みか、議論が止まったままかで、買主に伝えられる情報の説得力が変わります。所在のわからない住戸がある物件でも、除外制度という新しい対応策ができたことは、管理の将来像を説明するうえで前向きな材料になります。
まとめ
2026年4月1日施行の改正区分所有法は、「決まらないマンション」を減らすための改正です。出席者ベースの多数決への転換、所在等不明区分所有者の除外、条件付きの要件緩和という3点で、合意形成のハードルが下がりました。
✅ いま確認しておく3点
- 直近の総会議事録で、大規模修繕や建替えの議論がどこまで進んでいるか
- 長期修繕計画と修繕積立金が、計画どおりに積み上がっているか
- 管理組合が所在のわからない住戸を把握しているか(除外制度の検討対象になり得ます)
なお本記事は、令和7年法律第47号による改正区分所有法(2026年4月1日施行)に基づく一般的な説明です。個別の決議要件の当てはめや除外制度の申立てについては、マンション管理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
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